○インターフェロンγ療法
元々は犬のアトピー用に使われている薬ですが、免疫調節作用があるのと、ある種の癌に抑制作用が「ありそうだ」と思われている薬です。
副作用もまず無く、皮下注射で投与可能で、簡単に処置できます。
欠点は、何回も続けて注射が必要な事、効果ははっきりしないことです。
まだまだ研究が必要な薬です。
○温熱療法
癌細胞は熱に弱いとされています。厳密には「癌組織」と言ったほうが正解ですが。
正常組織は温熱下でも血管の拡張から排熱できますが、癌組織の栄養血管は
拡張ができずに熱をためてしまい、癌組織が壊死するというもの。
良い点は副作用が無い事と治療も簡易なものが多いことです。
この治療での癌組織の減少はまず望めないので、他の治療法と併用することが多いようです。
癌組織の蛋白変性による熱耐性がでるのが原因です。
また、体の深部への応用が難しい事もあり、体表の腫瘍であれば他の療法を利用する事のほうが効率が良さそうです。
経験的にも、皮膚の転移癌が進行しない程度は効果が得られましたが、
二次的に起こるDICやSIRS、敗血症などは対応できません。
他の療法と併用することが望まれます。
○凍結療法
皮膚表面の3~10mmくらいの腫瘍にのみ適用されます。
その名のとおり、凍結・壊死させて腫瘍を除去する手法です。
副作用無く、無麻酔でできますが、適用範囲が狭いのと悪性度が高い癌であれば
十分に壊死させることができないのが欠点です。
○CPL(環状重合乳酸)
癌細胞は通常の細胞とは違って、エネルギーを産生する機構が偏っています。
(TCA回路ではなく解糖系に偏る)
そしてブドウ糖の消費が激しい特徴があります。
(人間の癌発見検査機の一つである「PET」はこの性質を利用しています)
そのブドウ糖を利用した解糖系の反応に必要な物質の一つがピルビン酸キナーゼ。
この作用を阻害することでエネルギー生産能力を下げ、
壊死を誘導する作用があります。
そのほかの解糖系阻害作用としてLDH-K阻害作用もあります。
(詳細は割愛します)
通常の細胞はエネルギー生産にTCA回路を多く利用するため、阻害作用は軽度と考えられます。
また、微量ですが生体内物質でもあるので、報告によれば副作用も無いようです。
機序としては理屈が通っていますし、
他治療法と併用することで効果も期待できます。
あとはどの種類の癌にどれだけの量で適応できるのか、
どの動物に可能なのかなど、動物への利用に詰めが必要です。
○ジクロロ酢酸ナトリウム
先に説明したように、癌細胞ではTCA回路をあまり使わずに解糖系を中心にエネルギー生産を行います。
それは、細胞壊死にかかわるTCA回路、TCA回路関連物質のチトクロームc産生などを抑制することにもなります。
その結果、細胞壊死をしにくくし、解糖系亢進により酸性化した細胞や組織は免疫抑制を起こしたり様々な抵抗性を発現します。
ジクロロ酢酸ナトリウムはTCA回路を促進することにより癌細胞壊死をしやすい環境を整えることが期待できます。
実際、人間ではいくつか研究も進んでいるようです。
欠点としては脳腫瘍では副作用が強いのと、ビタミンB1欠乏を起こしやすいのでビタミンを服用する必要があることです。
CPLと同様に動物への適応へ詰めが必要です。
○アガリクス、メシマコブ、AHCC、D-フラクション、霊芝、冬虫夏草、紫根
これらはα・βグルカンなどを利用して生体の免疫を賦活するとされていますが、
いわゆる免疫細胞による癌細胞駆逐を促進することを期待するものです。
昔から使われてきたサプリメントや漢方薬ですが、
数十~数百億にまで膨れた、現在進行形で増殖中の癌組織をすべて駆逐するのは困難と言えます。
やはり免疫を利用した療法や免疫低下しやすい化学療法と併用すると良いかもしれません。
○GCP、サメ軟骨
これらも昔から動物医療でも使われてきたサプリメントです。
癌組織は必要な栄養が多いことから、自分たちの周りに血管を作らせる作用をします。
この血管を新生血管と言います。
GCPたちはこの新生血管を抑制し、成長を阻害する作用が期待できます。
ただ、目に見えての効果は期待できませんし、細胞レベルの癌にはあまり有用ではありません。
血液の癌にも効果が期待できません。
他の療法と併用することを考えましょう。
○高濃度ビタミンC療法
超高濃度のビタミンCを点滴で入れる療法。
人間ではいくつかのクリニックレベルで行われており、
抗酸化作用によるフリーラジカル除去がQOLを向上させます。
さらに、細胞内過酸化水素の発生によるヒドロキシラジカルの産生で、癌細胞にダメージを加え、壊死しやすい環境を作るとされています。
正常細胞は過酸化水素を分解するカタラーゼが十分に働いて無害にすることができますが、癌細胞ではカタラーゼ活性が低く、細胞障害がおきやすいようです。
欠点としてはやはり点滴治療なので半日は入院する必要があるかもしれないことと、犬猫ではまだまだ分からないことが多いと言うことです。
○食事療法
癌細胞は正常細胞より多くのブドウ糖など糖類を積極的に解糖系で使い、
エネルギーを作っていることは前述したとおりです。
また、癌細胞は常に発生しており、免疫系細胞が常に駆逐していることもお話しました。
食事療法とは基本的に「癌細胞の栄養になるブドウ糖、または分解されてブドウ糖になる炭水化物を制限し、免疫系が活性化される食事を摂る」ということです。
人間での例は以下の通りです。
動物性蛋白の制限
塩分の制限
炭水化物の制限
ブドウ糖の制限→ハチミツや果糖、オリゴ糖、てんさい糖など
果物などでビタミン摂取
野菜から食物繊維などを摂取
食物添加物の制限
乳酸菌摂取で腸内善玉菌の増加
白米でなく玄米へシフト
発酵食品の摂取
油はオリーブ油、ゴマ油、
トランス脂肪酸の多いマーガリンは禁止
基本的に人間でのメニューですが、生体として共通しそうな箇所が多いので、
おそらく癌と戦う体力や免疫力をつけるということに有用と思われます。
食事変更で癌細胞のエネルギー抑制はそんなに難しくないでしょうが、
免疫系の活性化に関しては食事だけでなく環境要因も大きいので
ストレスの少ない生活や、楽しい事も必要になります。
例えば食事自体がその人や動物の生活において重要な位置であるなら、
食事療法がストレスになります。
治療方法や副作用が大きい治療はストレスにより免疫系を阻害したりします。
ですので、「食事を変えれば癌が無くなる」ではなく、
目的である「癌細胞の栄養になる物を制限し、免疫系を活性化する」
手段の一つであることを忘れてはいけません。
「結果として」よい方向に向かう可能性があるのです。
当人に合っているか、実行可能か、他の療法と併せてみるか検討しながら
であれば十分に価値のある、理屈の通った療法と言えます。
○その他の対処法
例えば皮膚にできた、根っこが細めの腫瘍の場合。
摘出・病理検査をしないという前提で、
糸などで縛って壊死させるという、やや外科的な処置も可能です。
欠点は最初縛るときは少し嫌がるのと壊死してくると浸出液が出てくることや、
壊死・脱落させるまでに何回か縛る必要があることなどです。
良い点は全身麻酔は必要無い事、局所麻酔も必要ない事、です。