<癌治療の現在2015.12>
現在、人のがん治療を大別すると、
標準療法(手術・抗がん剤・放射線治療)、免疫細胞療法、代替療法、食事療法
になります。
大原則として、手術できる部分は摘出します。
そのため、術前に抗がん剤や放射線を使い、できるだけ小さくしてから摘出する場合もあります。術後腫瘍の種類によっては再び抗がん剤や放射線療法を加え、
その他内科的治療を行います。
それら術前・術後の内科療法(抗がん剤などの投与)は従来の抗がん剤や分子標的薬、ホルモン剤、放射線、重量子線などを使った標準療法、それに加え代替療法、食事療法で総合的に治療するのが一般的になってきました。
最近では免疫細胞を培養して利用する、免疫細胞療法も増えましたが癌を消失させたり大きく縮小させるほどは効果はありません。ですが、少ない症例ながらも腫瘍の種類・初期・体調により思った以上の効果が出るときもあるようです。
代替療法は百花繚乱の様相で、中には作用機序も理屈の通った物もありますがエビデンス(科学的根拠)として信用の高いものはあまりありません。ですが、当人の体験談でQOL(生活の質)が上がるという話を聞くことが時々あります。
食事療法はそれ自体が癌を縮小させるのではなく、
「免疫力・体力を上げて、色んな処置・薬に耐えられるだけの体を作る、または癌細胞を駆除する力をつける」のが目的です。
全てを食事療法に頼るのはやはり、現代の知識ではまだまだ危険な気がします。
実際の現場でもタイトな食事療法で結局QOLが下がってしまうことも多々あるようです。
その他新薬、重粒子線による治療、など治療法は進化を続けていますが、
まだまだ統一性も低く、最良のがん治療を求めて病院・薬を彷徨うがん患者さんが多くいらっしゃいます。
<<動物での癌治療>>
基本的な方向性は変わりありません。
標準療法、細胞免疫療法、代替療法、食事療法に大別されます。
やはり、摘出可能な部分の癌は手術で摘出します。
その際、大切な要因は
「手術できるかどうか、また、難易度はどのくらいで大学病院など高いレベルの施設の必要性の確認」
であって、決して「年齢」ではありません。
また、「癌の種類」は非常ーーーに重要で、
遠隔転移の早さや割合がかなり違います。
同じ種類でも進行度合いや発生場所の違いによって難易度も変わります。
癌発生以降の動きも非常に多様です。
そういった種類による動きと現状を考慮した上で、まず手術の検討をします。
<抗がん剤>
人より低濃度で使用するため、治療効果は比較すると低くなりがちですが副作用は人より少ないようです。化学療法の種類、ホルモン治療ができる分類などは人医に比べればかなり少なく、劣っています。
癌の種類によって全く違う種類の抗がん剤を数種類使用しますので、状況、体調、体質、ステージなどにより副作用や効果には大きく差が出ます。
腫瘍の種類によっては抗がん剤が非常に効果的な場合もありますが、遠隔転移を殆どしない種類や効きの悪い癌には、抗がん剤は必要ありません。
ですので、癌の種類をできるだけ特定して、予想される動きに合わせて対処するのは、手術と同じく大原則です。
ただし、動物の場合ほとんどは犬猫でのデータです。その他の動物では不明な事だらけです。
ウサギやフェレットはまだいいですが、デグー、ハムスター、モモンガ、鳥などは薬による治療法自体が非常に乏しいのが現状です。
<分子標的薬>
新しい分野の抗がん剤である分子標的薬は今後、使用頻度は多くなるでしょう。今のところ使用できる物は数種類だけであり、効果(生存期間)も著しいとは言えません。意外に副作用が強く出るケースもありますが、今後の発展には期待を込めて注目しています。
<NSAIDS>
化学療法に分類して良いのか悩みますが、NSAIDSいわゆる非ステロイド系消炎鎮痛剤も抗がん効果が期待できます。
これは腫瘍のCOX-2の発現(生体の免疫力を落としたたり、細胞のアポトーシスを阻害、腫瘍の栄養血管の造成をする)を阻害する働きがあります。比較的科学的に検討されており、信頼できるデータが存在します。
ただし、効果が期待できる腫瘍の種類が限定されていたり、使用できる動物の種類が限定されていたり、腎不全や消化管疾患が重篤な場合には使用できなかったりします。
<放射線治療>
放射線療法は、ほぼすべての癌に使用(緩和、治療双方に)できる利点があります。
難点は、設置施設はかなり限られており、基本的に全身麻酔が必要だということです。副作用も時々見られるようです。
<細胞免疫療法>
免疫細胞培養療法はまだ一般的ではありませんし、どんなに優秀な薬や免疫療法も、数センチ以上に大きくなった固形癌を消失させることはできません。やはり、可能であれば摘出したほうが良いようです。抗がん剤やその他の治療と併用すればQOLが上がる可能性は高いと思います。
<代替療法>
代替療法に関しては、内服物は人間で利用されているものが動物用に流用されています。濃度や形を変えて動物用として販売されたりして、エビデンスのしっかりしたものは少ないですがQOLの向上が期待でき、物によってはうまく「はまる」場合があります。
温熱療法やレーザー、ライザーなど電熱療法は効果は低いと言って良いでしょう。
その他代替療法ではどの種類のどのステージにどのくらい効くのか、研究されているものはなかなかありません。
その代わり、副作用はまず無く、スタートするのが容易です。
<食事療法>
食事療法はいくらか実践されていますが人と同じように、基本的には免疫力向上と糖分制限による癌細胞成長抑制が基本です。効果ははっきりしていませんが、作用機序や理屈ははっきりしており、ストレスが無ければ行っても良いでしょう。
<その他の要因>
その他、腫瘍の発見の遅れ(自己申告できない、腫瘍マーカーがない)、保険の少なさ、検査・治療の難しさ(長い時間静止できない、暴れてしまう)、飼い主さんの時間の確保が大変、費用負担が大きい、など、動物ならではの問題も山積しています。
<その他の小動物への癌治療>
残念ながら犬猫ですら癌治療の進歩は途上で(個人的な感覚ですが)、ましてや、鳥、フェレット、ハムスター、その他の小動物に至っては、
標準治療そのものが構築不可能な場合が多く、また、獣医師によって治療方法のばらつきも大きくなっています。
<環境の現状>
現在の日本の環境からは、喫煙、食品添加物、防腐剤、放射能汚染、電磁波、etc... 現代においておそらく癌化するのを助長しそうな、でもさまざまな事情で公表されなさそうな、危険性を含む物がそこらじゅうに増えました。
経済は中国が台頭し、食品の安全性はますます怪しく、動物のフード会社も信頼を取るのに苦労しています。
治療方法や薬、食事、生活習慣などの多くの情報の中で、どれが正しいものか、適しているかを見極めるのは容易ではありません。
癌の治療も同じく、治療が容易ではないからこそ出てくる、不安につけこんだまがい物の薬や治療が横行するのは人と同じようです。
<がん治療に対する私の考え>
癌の治療と言えば「手術、抗がん剤、放射線治療」です。
これには全く異論ありません。
事実、その3つはいわゆる「標準治療」と言われるもので、様々な種類の癌に対して、それぞれに多くの研究と実験と経験から生み出された、科学的な証拠(エビデンス)をもとに生存期間で評価されています。理由と結果がはっきりして、信頼できます。
しかし、私は直接お会いして、代替療法が著効したお話や体験を聞く機会が何回となくありました。もちろん、科学的に証明をしていませんので効き方は科学的にどうだったのか分からないのですが、他の同じ種類の癌治療をしている人よりQOL(生活の質)が高かったのは確かです。信用できる人達の話ですので正直驚きました。
以前ではあまり検討しなかった治療方法が効果あるかもしれない、それでなくても全体的な治療の副作用を出にくくする可能性は高そうだ、そう思える内容でした。
食事療法や代替療法がどのように効くのか、作用機序は何なのか、相乗効果があるのか、腫瘍の種類によってどのくらい効果が違うのか、など、代替療法の可能性を探り始めるきっかけになったのです。
私は基本的にはエビデンスを重要視しますが、動物のがん治療において標準治療だけでは本質を見失います。QOLを軽視した治療は目的を逸していますし、飼い主さんの事情を考慮しない計画は治療になりません。
さらに、人間と動物の大きな違いがあります。
それは「治療される当人」が治療を了承するのではなく、「飼っている人」が選択するという責任の重さ、当人の意思を確認できない不安です。
飼っている犬が癌になっても「どうしたいか」を聞くことは絶対にできません。
たぶんこうしたいだろうと想像はできても、確認することはできません。
だから、皆、悩みます。
抗がん剤の副作用に怯えます。
どこまで時間とお金をかけられるか、代替療法を選択することについてこの子がどう思うか、確認できずに葛藤が起きます。
だからでしょうか、癌に対して標準治療を選択するよりも、副作用の殆んど無い、代替療法を選択する飼い主さんは昔より増えました。
もちろん、標準治療は進歩していること、抗がん剤の副作用は人間と比較できないこと、癌の種類によっては標準治療の方が「根治できる」可能性が高いことなど説明した上での話です。
動物の癌治療に対する誤解や偏見もあるでしょうが、治療に対する意見が多様化しているのは間違いないようです。
代替療法は、エビデンスがほとんどありません。まがい物も多いでしょう。
しかし効果の可能性は決して否定できません。作用機序や用量がはっきりして
いくらかの実験証明があるものであれば、その可能性は高くなります。
標準治療をしない時(もしくは標準治療併用時に)、
高いQOL維持の可能性があります。
標準治療が困難な小動物への適応の可能性があります。
私は代替療法を妄信しません。
また、標準治療のみに専心するわけでもありません。
標準治療ができない動物には残された可能性を探るべきだと考えます。
分子標的薬など最新の癌治療薬もどんどん開発されていますので、そちらの方が良いのであればそちらを使うべきです。
科学的に使えるものであれば、使うべきだと思うだけです。
代替療法はそのうちの一つです。
そこで、癌治療には標準治療だけでなく(もしくは標準治療を断念する場合には)、状況を考慮した代替療法を加え、使用できる療法を考えていくことにしています。
標準治療および代替療法その他の項目を
下の階層に置いておきます。
少しでも癌治療において理解の助けとなればと思います。